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坊さんの初夢「西暦20XX年の寺」

菩薩行実践の日
西暦20XX年X月X日。本日は護持会員総出の菩薩(ぼさつ)行実践の日である。三々五々集まってくる老若男女。長靴にゴミ袋のお年寄り、軽トラに露天風呂を積んだ若者、手作り紙芝居を抱えピエロの衣装の高校生、中には白衣に診療カバンのお医者さんもいる。境内にはボランティア受け入れの団体や家族が出迎えている。
新世紀初頭に全日本仏教会で菩薩行実践の日が制定され、各寺院はどのようなボランティアに参加したかを報告することになった。河川敷のゴミ拾い、寝たきり老人の入浴サービス、公園で子供たちに紙芝居や手品を見せたりと。お医者さんもこの日だけは無料診療。以前から寺には「菩薩行友の会」が結成され、常時ヘルパーが駐在して介護サービスに対応してきたが、この行事が恒例化してからは寺と地域住民との絆(きずな)がより深まった。
森に沈むエコ寺院
宗門あげて環境保護の信仰運動「グリーンプラン」パートⅡが開始してはや十年。現在、山内の照明や暖房などはすべて自前のクリーンエネルギー太陽光発電でまかなっている。なんと本堂の屋根全面に張られた発電パネル。お寺の本堂は南向きが多く、屋根のそりは太陽光を吸収するのに最適と、発明好きなお坊さんがお寺用に開発したものである。設置した直後はギラギラ反射し、何とも不つりあいとの声も聞かれたが、近ごろようやく町民の目にも慣れてきた。
その他、割りばし集成の塔婆(とうば)、骨つぼや墓石までも三十三回忌ごろに土にかえるものが使われ始めた。森に沈むエコ寺院と紹介されている。
座禅会ブーム到来
地元マメ新聞抜粋「……歴史ある長泉寺暁天座禅会は自然消滅かと思われていたが、最近は希望者が急増し、時には本堂に入りきらず前庭でゴザに座る者も出る盛況ぶり。この所の座禅ブームの影響か」
前世紀末から急増した青少年犯罪は今世紀に入ってさらに深刻化した。政府は宗教情操教育の重要性を唱え、社会教育での活用を提案した。これには多くの知識人から憲法に違反するのではと反対もあったが、参加するか否かは本人や家庭の判断にまかすということで決着。公民館の少年座禅クラブの中からは、得度(とくど=僧侶になる儀式)を受け永平寺へ安居(あんご=修行)を志す者が出ている。
悩みの仏教相談
死因第一位を占めていた悪性新生物(がん)は今世紀早々、特効薬が開発され、今や日本人の平均寿命は九十二歳。しかし、寿命は延びてもお釈迦(しゃか)さまの説かれた四苦八苦は相変わらず。
明日午後一時からは「悩みの仏教相談」の開設。最近の傾向としては七十歳以上の高齢者の結婚相談が多い。定年まで仕事一筋に生きてきた男女がやはり一人では何か物足りない。人生のアンコールを頼れる伴侶とともにということらしい。身の上相談だけでなく身の下相談もあって少々困っている。
僧侶自ら懺悔(ざんげ)
来週早々、福島での住職研修会に参加の義務。「誰でもわかるお経とは」のテーマで、いかに釈尊の教えを現代的に平易に説いていくかを研修予定である。
夜の懺悔の時間では、葬儀や法事の際の僧侶の対応のまずさや、仏戒を守るはずの僧侶の行状について内部告発がある模様。この時ばかりは参加者皆緊張する。「西川一英師、あなたは夜な夜な近くの飲み屋へ行き、寝坊して朝のお勤めを忘れることがある。そのため住職停止一ヵ月に処する」との夢の中の声で二十一世紀が明けた。私たち坊さんにとっても良き新世紀でありますように。


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